がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に加え5大疾病のひとつに数えらるようになった精神疾患。
その中でも私たち現代人にとって最も身近なものが「うつ病」です。
うつ病が発症するメカニズムは精神医学や脳科学のアプローチで解明されつつありますが、その対策を含め、まだまだわからないことが多い状況です。
そこで今回は仏教の「心所」(しんじょ)という概念を用いて、うつ病のメカニズムについて考えていきたいと思います。
「心所」とは心を構成する要素のことを指します。心という入れ物の中には様々な「心所」が存在し、その構成バランスで「こころのあり方」が決まります。
例えば、
・怒りに囚われているとき、その人の心には、「瞋」(怒り)の心所が溢れています。
また、
・はぐれた親猫を求めひたすら鳴く仔猫を、そっと抱え上げた人の胸の中には「悲」(あわれみ)の心所が湧き上がっています。
この「心所」という補助線を用いて考えると「うつ病」は次のように解釈できます。
不善(悪の)心所の一つである「後悔」は「過去の自分や出来事への怒り」の思いをあらわします。
また、人間を含めすべての生物は先に向かい「伸びようとする」働きを持っています。
草木の根は放っておいても「伸びよう」とし、乳飲み児もまた誰に教わることなく「栄養を欲して心身を成長させ」ます。
これら「伸びようとする力」はいわば生命エネルギーによる働きです。
一方で「後悔」は過去に向かう強い怒り、執着です。
未来に伸びようとする生命エネルギーに対して、時間軸を遡(さかのぼ)り、心身を萎縮させるのが「後悔」の作用です。
この「後悔」の働きにより生命体は、本来ある「伸びようとする働き」を失い、生命力を枯渇させていきます。
これが「後悔」という心所により「うつ病」が生じるメカニズムです。
激しい「後悔」は生きることに逆行する活動です。それゆえ「うつ病」や「希死」を招くことになります。
もちろん、こころの働きである「後悔」を伴わない、身体的な要因による「うつ病」も想定されます(例えば特定のモノアミン系神経伝達物質の欠如など)
しかし、私たちが実生活で実践可能な「うつ病」の対策としては、「小さな後悔」に煩わされ、それを激しい思いに変えてしまわないことが重要になってきます。
「後悔」は激しい怒りの感情を伴うため、嗜癖化しやすい(クセになりやすい)傾向があります。
そのため、「伸びる働きを失い、生命エネルギーが枯渇」した状態である「うつ病」を引き起こさないよう、日常の「小さな後悔」にも、こころを囚われてしまわないよう注意しましょう。
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